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「バルバラ異界」

「バルバラ異界」

バルバラ異界 4
萩尾 望都
小学館 (2005.9)


何というべきなのか、一言で言えば、揺さぶられた。

死んだ2人の祖父のことを思い出す。
まだはっきり耳に残っている声と、ビデオや写真を見ることによってまだ鮮やかに保たれている面影の記憶。
家族や叔母達の相貌の相似。
共に過ごした日々の思い出。繰り返し思い出す言葉。
それと引き換えのように、どんどん忘れていく細かいディテール。

今風邪引きで傍らに眠っているちい。その身体の重み、抱いた時の感触。
生まれたばかりの赤ん坊が、だんだん大きく育っていった日々……
少しずつ明らかになっていく、自分の老い。

失われていくもの。
すり替わる記憶。薄れて消えて行く記憶。

今手にしているものが失われたら、わたしはどうやってそれを補うのだろうか。
失ってしまったことによって、傷ついた魂は二度と癒されず、戻らないのだろうか。
人は変わって行く。世界も変わって行く。

人は夢を見るのと同じ方法で、世界を知覚し、理解しているのかもしれない。
夢の世界バルバラ、失われたことで、トキオには更にリアルに、痛みを持って実感されただろう。自分の記憶も、世界も、そして未来も過去も変わってしまって……
そしてその彼の2重の記憶のぶれは、失われたトキオのキリヤと一緒に、未来の世界を支える礎になったのかもしれない。

この萩尾望都との物語の世界を、限られた人だけが味わうことができるというのはもったいないなあ。
もっとたくさんの人が、世界中の人が、このイマジネーションを一緒に楽しんで欲しいのに。
今日本で、きちんとSFをSFとして売れるのは、この人くらいなのかもしれない。

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コメント

不思議な話だよね。
この人の書く話を読むとなんだかふわふわした浮遊感を感じる時がある。
夢と現があいまいになってくる感じ。
これがSFというものなのかもしれないね。
気をつけないと飲み込まれそうな気がしたりする。
じっくり通しで読んでみたい話を書く作家さんの1人です。とは言え「ポーの一族」しか買ったことはないんですけどね(笑)ミーハーですね。

投稿: @妻 | 2005.10.07 00:54

「ポーの一族」はすごい作品ですよね。愛蔵版で持ってますが(笑)
でも実は栗本薫のミステリでそれをモデルにしたらしい作品のことを読むまで、読んだことがなかったのだ(笑)
お勧めは、「マージナル」とかかなあ。痛い話なら「メッシュ」とかもあるけど。
買うなら「秋の旅」とかがいいかも。
まだすべての作品を読んだわけじゃないですけど、ものすごく影響を受けた作家ですね。

投稿: luna | 2005.12.12 13:22

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