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「第九軍団のワシ」イルカの指輪の系譜:その1

「第九軍団のワシ」イルカの指輪の系譜:その1




ローズマリ・サトクリフ作 / 猪熊 葉子訳
岩波書店 (1984)



主人公:マーカス・フラビウス・アクイラ
クルージウムの騎士階級出身、
第二軍団付属補助大隊(第四ゴール地方軍団)司令官、筆頭百人隊長
→負傷、退役
物語の年代:117年+8+1=126年ごろ?

主人公マーカスの父は、第九ヒスパナ軍団第一大隊長(軍団の副司令官)で、軍団とともに行方不明。
叔父のアクイラ(父の弟)はカレバ在住、駐留地の司令官上がりで、カレバの執政官。

そして父がいつもはめていた傷のあるエメラルドの紋章づきの指輪が日光を受けて突然緑の火花を散らした。p.15

マーカスはワシを探す旅の途中、エピダイ氏族のトラデュイ老人から、第九軍団の兵士の指輪を見せられる。

「あの連中は真の戦士じゃった。わしらはあの連中の武器はそのままおいてきた。それが戦士への礼じゃからな……だがあの隊長からわしはこれをとってきた。荒々しく、勇気のあるイノシシからキバを引き抜いてくるようにな。これには何か功徳があると思ってのことだ。それ以来わしはこれを見につけておる。」
老人は探していたものを見つけ、首にかけていた革紐をはずした。「わしの指にははまらんのでな。」しゃくにさわる、というように老人はいった。「赤い羽根飾りのやつらはわしらよりも指が細いと見える。ほら、手にとってみるがいい」
 紐のはしで指輪がゆれ、松明の明りのなかで、かすかな緑色の火花を散らした。マーカスは老人の手からそれをとると、頭を垂れてそれを調べた。それは重い認め印つきの指輪だった。そしてひびのはいった宝石の表面には、家門のイルカの印が彫ってあった。マーカスは長い間それをそっと手にもっていた。まるでそれが生き物ででもあるかのように。そして緑の石の中心に松明の光が踊るのをじっと見つめていた。それからマーカスはさりげない言葉で礼をいいながらかえしてもらおうと手をのばしている老人にそれをかえした。そしてふたたび注意を踊り手たちの方にむけた。だが激しい踊りはぼやけていた。それは十二年以上の歳月を越えて、突然マーカスが父の姿を眼前にみたからだった。背の高い、色の黒い男が、笑顔で幼いマーカスの上にのしかかるようにして立っていた。頭を垂れた男の頭上をハトが旋回していた。父がひたいをこすろうとして手をあげると、飛ぶハトたちの羽根の縁をあかあかと照らし出していた日光が、ひびのはいったエメラルドの指輪にきらめいた。p.258-259

「じいさんはおれを呼んでいった。『あの男を追いつめるのは、おまえでなくちゃならんぞ。あの男とおれたちは運命の糸で結びつけられているのだからな。追いつめたら殺せ。氏族の神を辱めたのだから。だがあの男の父親の指輪は返してやれ。あの男と父親とは血の縁以上のものでつながっているのだから。」(原文ママ)
 一瞬沈黙が完全にあたりをおしつつんだ。そしてそれからマーカスはいった。「今もっているのか?」
「首にかけてある紐の先だ。」リアサンはふてくされたようにいった。「自分でとるがいいじゃないか。おれはこうして縛られているんだから。」
 マーカスはいい方のひざをつき、身体を低くし、リアサンのマントの方の布ひだのなかをのろのろと探った。りあさんのいったことは嘘ではなかった。マーカスは指輪をみつけた。指輪は背中の方にまわっていたので、マーカスは紐をひき出して、切った。そしてそれを薬指にはめた。光は刻々うすれていきつつあった。最後にその指輪をみた時には、緑の火花を散らしていた大きな石はヒイラギの葉のように冷たく濃い色をしていた。そして空の色をかすかにうつしているだけだった。「もしこれが逆になって、おれとエスカがおまえの槍で倒されたら、おれの父親の指輪を返す機会はなかったろうに。その場合祖父(じい)さんのいいつけをどうやって果たすつもりだったのかね?」マーカスは好奇心にかられてたずねた。
「あんたは指輪をはめていなくちゃならんのさ。戦う時に武器をもち、気に入った猟犬をつれていくのと同じだよ。」
「なるほどな。」マーカスはいった。指輪からリアサンの方に目をむけたマーカスは急にほほ笑みらしいものを浮べた。「帰ったらトラデュイにいってくれ。おれの父親の指輪を贈り物にしてくれてありがとうとな。」p.332-333

エスカはうなずいた。そして腕をのばして立ち上がろうとするマーカスをささえた。そうしながらマーカスの指にはまっているひびのはいったエメラルドの石をみて、何か問いたげな視線をちらとマーカスの顔にむけた。
「そうなんだ。リアサンがおれの父の指輪をもってきてくれた。あの祖父(じい)さんからおれへの贈物だよ。」
マーカスは氏族の男たちを見おろした。「馬を二頭かりていくぞ、リアサン。防壁までいくのにな。だが用がすんだら放してやるよ。運がよければ、みつかるだろうーー事がすんでからな。みつかるといいがな。おまえはおれの父の指輪をもってきてくれたんだから……さるぐつわだ、エスカ。」p.333-334

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