「銀の枝」イルカの指輪の系譜:その3

「銀の枝」イルカの指輪の系譜:その3





ローズマリ・サトクリフ作 / 猪熊 葉子訳 / チャールズ・キーピング絵
岩波書店 (1994.11)


主人公:ティベリウス・ルシウス・ジャスティニアヌス(ジャスティン)
ルトピエの新任下級軍医。祖父はブリテン生まれ、ニカエに落ち着く。
指輪を受け継いでいるのは、マーセルス・フラビウス・アクイラ(フラビウス)
ルトピエ駐留の百人隊長
物語の年代:293〜296

そしてすばやい身ぶりで、左手から何かを抜きとって、ジャスティンの方に差しだした。「こういう類いのものを見たことはありませんか?」
 ジャスティンはそれを受け取り、じっと見た。それは重くて、ひどくいたんだ印章つきの指輪だった。傷のあるエメラルドの面は冷たく影になっていたが、窓からの光で表面を照らすと、彫刻されたものがはっきりと浮き出てきた。「このイルカのことですか?」彼は興奮が徐々に湧きあがってくるのを感じながらいった。「ええ、見たことがありますよ。わたしの祖母の化粧箱の象牙の蓋に彫ってありましたね。それは祖母の家系の紋章だったのです。」p.22

イルカの指輪は、ここでは二人の家系の繋がりを示す小道具となった。

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「辺境のオオカミ」イルカの指輪の系譜:その2

「辺境のオオカミ」イルカの指輪の系譜:その2





ローズマリ・サトクリフ作 / 猪熊 葉子訳
岩波書店 (2002.1)


主人公(指輪の継承者):アレクシオス・フラビウス・アクイラ
ドイツ、アブシーナ駐留のブリテン歩兵隊の二百人隊の次席百人隊長
→カルッテルム(クラモンドの架空のローマ名)の辺境守備隊の指揮官、二百人隊長
→アタコッティ辺境守備隊(ベルギカ)の初代司令官

伯父マリウス(母の腹違いの兄)は北ブリテン最高司令官で、アレクシオスの亡父の友。

物語の年代:343年ごろ

アレクシオスは亡き父から指輪を受け継いでいる。

イルカを彫った紋章指輪をはめた指を見つめていたのだ。それは傷のあるエメラルドの指輪だった。その古びた傷のある指輪は、長い年月を誇り高い軍人の先祖たちと過ごしてきたものだった。そしてそういう先祖たちを完全に失望させるようなことをしでかしてしまった今、自分にできることがあるとすれば、これ以上の辱めをこの任務についている間に部下たちに与えないことだった彫刻のある指輪は黒っぽく、秘密を隠していた。秋の空の冷たい表面を映しているだけだった。指輪は何も語りかけてはこなかった。p.28~29

アレクシオスは先祖について語る。

「多分はじめてブリテンに根を下ろしたローマ軍団につらなる先祖の血を受けているからでしょうな。その先祖はエトルリアからやって来ました。そのあたりの人間は痩せていて色黒です。でも彼が最高司令官の将校団のお坊ちゃんだったとは思いません。わたしにはブリテン人の祖母がいます。そしてわたしの乳母はイーリンの奴隷市からやって来ました。そしてこの二人はわたしが父の言葉を覚える前に、土地の言葉で歌を歌って聞かせたのです。」p.50

さらに注意しながら手紙を書き終えると、アレクシオスは木の板を二枚合わせ、赤い糸で結び、封をしてわきに置いた。印章のイルカの印が蝋のかたまりにくっきりとほこらしげに浮き出ていた。p.66

傷のある古いエメラルドの指輪は指にはまっていたが、ゆるゆるだった。注意しないと、なくしてしまうだろう。とにかくそれははめるべき指にはまっていなかった。だれからそれを彼のためにはめなおしたのだろう。
 見守っていると、指輪の石に日光があたった。そしてその石の奥に小さな緑の火花が散り、そして消えるとまた目覚めた。そして急に、カステッルムの道路を約一年半前に砦に向かって馬を進めていく途中でそうしたように、彼にその指輪を伝えてきた男たちのことを考えた。しかしそれは異なる種類の考えだった。
「わたしがあなた方の面目を失わせたとはいえませんよ、」アレクシオスは彼らに向かっていった。「まだ今のところはね。今わたしに何が起ころうとも、わたしの輝かしい陸軍の経歴はどれほど駄目になってしまうかも知れなくても、わたしは部隊を連れ帰ったのです。そうです、わたしたちはそれぞれを連れ帰りました。」p.298-299

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「第九軍団のワシ」イルカの指輪の系譜:その1

「第九軍団のワシ」イルカの指輪の系譜:その1




ローズマリ・サトクリフ作 / 猪熊 葉子訳
岩波書店 (1984)



主人公:マーカス・フラビウス・アクイラ
クルージウムの騎士階級出身、
第二軍団付属補助大隊(第四ゴール地方軍団)司令官、筆頭百人隊長
→負傷、退役
物語の年代:117年+8+1=126年ごろ?

主人公マーカスの父は、第九ヒスパナ軍団第一大隊長(軍団の副司令官)で、軍団とともに行方不明。
叔父のアクイラ(父の弟)はカレバ在住、駐留地の司令官上がりで、カレバの執政官。

そして父がいつもはめていた傷のあるエメラルドの紋章づきの指輪が日光を受けて突然緑の火花を散らした。p.15

マーカスはワシを探す旅の途中、エピダイ氏族のトラデュイ老人から、第九軍団の兵士の指輪を見せられる。

「あの連中は真の戦士じゃった。わしらはあの連中の武器はそのままおいてきた。それが戦士への礼じゃからな……だがあの隊長からわしはこれをとってきた。荒々しく、勇気のあるイノシシからキバを引き抜いてくるようにな。これには何か功徳があると思ってのことだ。それ以来わしはこれを見につけておる。」
老人は探していたものを見つけ、首にかけていた革紐をはずした。「わしの指にははまらんのでな。」しゃくにさわる、というように老人はいった。「赤い羽根飾りのやつらはわしらよりも指が細いと見える。ほら、手にとってみるがいい」
 紐のはしで指輪がゆれ、松明の明りのなかで、かすかな緑色の火花を散らした。マーカスは老人の手からそれをとると、頭を垂れてそれを調べた。それは重い認め印つきの指輪だった。そしてひびのはいった宝石の表面には、家門のイルカの印が彫ってあった。マーカスは長い間それをそっと手にもっていた。まるでそれが生き物ででもあるかのように。そして緑の石の中心に松明の光が踊るのをじっと見つめていた。それからマーカスはさりげない言葉で礼をいいながらかえしてもらおうと手をのばしている老人にそれをかえした。そしてふたたび注意を踊り手たちの方にむけた。だが激しい踊りはぼやけていた。それは十二年以上の歳月を越えて、突然マーカスが父の姿を眼前にみたからだった。背の高い、色の黒い男が、笑顔で幼いマーカスの上にのしかかるようにして立っていた。頭を垂れた男の頭上をハトが旋回していた。父がひたいをこすろうとして手をあげると、飛ぶハトたちの羽根の縁をあかあかと照らし出していた日光が、ひびのはいったエメラルドの指輪にきらめいた。p.258-259

「じいさんはおれを呼んでいった。『あの男を追いつめるのは、おまえでなくちゃならんぞ。あの男とおれたちは運命の糸で結びつけられているのだからな。追いつめたら殺せ。氏族の神を辱めたのだから。だがあの男の父親の指輪は返してやれ。あの男と父親とは血の縁以上のものでつながっているのだから。」(原文ママ)
 一瞬沈黙が完全にあたりをおしつつんだ。そしてそれからマーカスはいった。「今もっているのか?」
「首にかけてある紐の先だ。」リアサンはふてくされたようにいった。「自分でとるがいいじゃないか。おれはこうして縛られているんだから。」
 マーカスはいい方のひざをつき、身体を低くし、リアサンのマントの方の布ひだのなかをのろのろと探った。りあさんのいったことは嘘ではなかった。マーカスは指輪をみつけた。指輪は背中の方にまわっていたので、マーカスは紐をひき出して、切った。そしてそれを薬指にはめた。光は刻々うすれていきつつあった。最後にその指輪をみた時には、緑の火花を散らしていた大きな石はヒイラギの葉のように冷たく濃い色をしていた。そして空の色をかすかにうつしているだけだった。「もしこれが逆になって、おれとエスカがおまえの槍で倒されたら、おれの父親の指輪を返す機会はなかったろうに。その場合祖父(じい)さんのいいつけをどうやって果たすつもりだったのかね?」マーカスは好奇心にかられてたずねた。
「あんたは指輪をはめていなくちゃならんのさ。戦う時に武器をもち、気に入った猟犬をつれていくのと同じだよ。」
「なるほどな。」マーカスはいった。指輪からリアサンの方に目をむけたマーカスは急にほほ笑みらしいものを浮べた。「帰ったらトラデュイにいってくれ。おれの父親の指輪を贈り物にしてくれてありがとうとな。」p.332-333

エスカはうなずいた。そして腕をのばして立ち上がろうとするマーカスをささえた。そうしながらマーカスの指にはまっているひびのはいったエメラルドの石をみて、何か問いたげな視線をちらとマーカスの顔にむけた。
「そうなんだ。リアサンがおれの父の指輪をもってきてくれた。あの祖父(じい)さんからおれへの贈物だよ。」
マーカスは氏族の男たちを見おろした。「馬を二頭かりていくぞ、リアサン。防壁までいくのにな。だが用がすんだら放してやるよ。運がよければ、みつかるだろうーー事がすんでからな。みつかるといいがな。おまえはおれの父の指輪をもってきてくれたんだから……さるぐつわだ、エスカ。」p.333-334

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「王のしるし」

サトクリフの著作リストのメンテをするので、ネットでいろいろ調べてみたんだけど、これなかなか色っぽいデザインだよね。

原書、一応持ってはいるんだけど、これなら買ってみたいかも(笑)

念のため申し上げますと、涙なくしては読み終われない、きらめく、骨太な感動の物語です。
今、一生懸命書評を書いております(^^;

参考:スコットランド幻想

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サトクリフ「王のしるし」の舞台を訪ねて

表題の記事をようやく直しました。
前に公開していたバージョンよりも写真を増やしたので、ぜひぜひ見てください。
わが心のスコットランド 1「王のしるし」によせて〜こだわりのスコットランド〜

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